僕の「サラバ」
西加奈子『サラバ!』を読んで
文庫本は上・中・下巻に分かれているのだが、後半に差し掛かるにつれて読む手が止まらなくなり、下巻に関してはその日の予定を全カットして読書に費やした。
凄かった。
いやいや、感想もっとあるだろといわれそうだが勘弁してほしい。素直な感想がこれだ。
もちろんボリュームもそうだ。総ページ約900の大作は久しぶりに読んだし、割と読みやすい文章と読了後の爽快感がないと僕にとってはかなりきつかった。
ただ、何が凄かったって、あの熱量とメッセージ性だ。ラストなんて刺さりまくって笑った。もう笑うしかなかった。
この作品は、イランで生まれた主人公歩(あゆむ)の自叙伝のようになっている。阪神淡路大震災、同時多発テロ、東日本大震災が歩や歩の周りに与えた影響が書かれているところもこの作品の面白さの一つかもしれない。
ただ、この作品で僕が最も惹かれたのは歩という人物だ。物語が後半に差し掛かるにつれて彼の人生は転落の一途を辿り、決して素晴らしい人生・人間とはお世辞にも言えない。
でも、どこか心地よかった。たぶんそれは僕と似ていたから。もちろん容姿端麗だとか、海外移住経験があるとか似ても似つかない部分もあるが、周りの空気を異常に気にするところとか、いちばん安全な立場を無意識的にとってしまうところなんてまさしく僕だった。
そしてなんといっても須玖が好きすぎた。彼は美しかった。彼のような人間と親友になれる歩がうらやましかった。なるほどそう来たかと笑ってしまったが、須玖の信じるもの、信じる姿勢も美しかった。信じるものにまっすぐで、もう、敵わないわ。
何かを信じてまっすぐに生きるには、今の時代情報が多すぎる。でもそんなのものともしない須玖に魅力を感じる人は少なからずいるんじゃないかな。
物語の核となるヤコブとの思い出も良い。汚い部分、穢れた部分が一切ない。ぜひともエジプトのナイル河を生で拝見したい。
他にも、歩はたくさんの魅力的な人物と出会う。そして、美しい思い出を刻む。
自分で言うのもなんだけど、僕も人間関係には恵まれていると思う。美しい友人、家族がいる。
そんなところも、歩と似ている。
おなかがすいた。ちょっとティラミス買ってくる。